債権を目的とする質権の設定承諾請求書に当該債権の債務者が記名押印して承諾したことは認められるものの、当該請求書に確定日付が付されていないから、質権者である請求人は当該債権を差し押さえた原処分庁に対抗することができないとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2009/06/10 [国税徴収法][国税と他の債権との調整] 本件質権により担保される請求人の債権が本件滞納国税に優先するには、請求人が原処分庁に対し、国税徴収法第15条第2項に規定する方法により、本件質権が本件滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことを証明する必要があり、指名債権に対する質権が滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことが証明されたといい得るためには、第三債務者に対する質権設定の通知又は第三債務者による質権設定の承諾が確定日付のある証書によって行われることを要し、かつ、当該証書に付された確定日付が滞納国税の法定納期限等以前のものであることを要するところ、本件の第三債務者が本件質権の設定の通知を受け、これを承諾した本件質権設定承諾請求書には確定日付が付されておらず、請求人は、本件質権の設定を第三者である原処分庁に対抗することができないから、本件滞納国税の法定納期限等以前に本件質権が設定されたことが証明されたということはできない。
これに対し、請求人は、第三債務者が本件質権の設定を承諾した証書には確定日付が付されていないが、本件生命保険証券には質権設定を第三債務者が承認する旨の裏書があり、かつ、確定日付が付されているので、両証書を一体とみなし得る事情が存在し、本件質権は上記確定日付の年月日に設定されたものとみなされるから、本件質権は本件滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことが証明されたものといえる旨主張する。
しかしながら、上記裏書事項は、第三債務者が保険金支払請求権上に質権が設定されることを承認するということが記載されているにすぎず、その文言からは、請求人が質権者であることも、設定される質権により担保される債権が本件被担保債権であることもうかがうことはできず、まして、これを質権設定契約書とみることもできないのであるから、本件生命保険証券に確定日付が付されていることをもって、第三債務者の承諾が確定日付のある証書によってなされたものとみることはできない。また、請求人の主張を認めると、質権が設定される債権の債権者と債務者が共謀して、質権設定日をさかのぼらせ、第三者の権利を害することが可能となり、承諾が第三者に対する対抗要件足り得るためには、確定日付のある証書をもってすることを必要としている法の趣旨を没却してしまうことになりかねない。そうすると、本件質権が第三者である原処分庁に対する対抗要件を備えていない以上、本件質権は、本件滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことが証明されたものということはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
平成21年6月10日裁決
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- 債権を目的とする質権の設定承諾請求書に当該債権の債務者が記名押印して承諾したことは認められるものの、当該請求書に確定日付が付されていないから、質権者である請求人は当該債権を差し押さえた原処分庁に対抗することができないとした事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(国税徴収法>国税と他の債権との調整)
- 「一括支払システムに関する契約書(代金債権担保契約書)」第3条の2(国税徴収法第24条の規定に基づく譲渡担保権者に対する告知が発せられたときは、当座貸越債権は何らの手続を要せず弁済期が到来するものとし、同時に担保のため譲渡した代金債権は当座貸越債権の代物弁済に充当されるとするもの)の効力について、かかる変動を認めることは国税徴収法第24条による物的納税義務の規定が機能しなくなることを意味するのであるから、国税徴収法第24条の規定が、このような擬制による権利変動を保護しているとは解されないとした事例
- 譲渡担保契約は処分清算型と認められるから債権者による譲渡担保財産の換価前にされた差押処分は適法であるとした事例
- 譲渡担保権者に対する告知処分及び譲渡担保財産につきした差押処分は、国税徴収法第24条第1項ないし第3項の規定に従って適法になされているとした事例
- 告知処分時において譲渡担保権の実行は完了しておらず、被担保債権は消滅していないから、譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分は適法であるとした事例
- 一括支払システム契約における代物弁済条項の国税債権者に対する効力が否定され、譲渡担保権者である銀行が国税徴収法第24条の物的納税責任を負うとされた事例
- 譲渡担保財産が将来債権である場合、当該債権が譲渡担保財産となった時期は、債権が具体的に発生した時であるとした事例
- 債権譲渡の通知がされた債権を差し押さえた後、譲渡担保財産であるとして譲渡担保権者に対してした告知処分が適法とされた事例
- 代物弁済を原因とする不動産の所有権移転登記について、その実質は譲渡担保契約に基づくものであるとみるのが相当であり、清算手続がとられていない以上、被担保債権が消滅したものとみることはできないとして、国税徴収法第24条の譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分が適法であるとした事例
- 譲渡担保財産が将来債権である場合、当該債権が譲渡担保財産となった時期は、譲渡担保契約の締結時ではなく、当該債権が現実に発生した時であるとした事例
- 告知処分時において譲渡担保の目的とされた債権が譲渡担保財産として存続していたとした事例
- 譲渡担保の目的とされた債権の譲渡に係る第三者対抗要件が滞納国税の法定納期限等以前に具備されていた事実は認められないから、当該債権が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となったということはできないとした事例
- 株式に根質権を設定した後、質権者がその株券を質権設定者に返還し、改めて預金債権に質権を設定した場合に、その預金の差押えに係る配当において、株券の質権設定日と法定納期限等とで優劣を決すべきであるとの請求人の主張が排斥された事例
- 債権を目的とする質権の設定承諾請求書に当該債権の債務者が記名押印して承諾したことは認められるものの、当該請求書に確定日付が付されていないから、質権者である請求人は当該債権を差し押さえた原処分庁に対抗することができないとした事例
- 滞納者の破産手続開始決定後に行われた滞納者を譲渡担保設定者とする譲渡担保債権についての滞納処分が破産法第43条第1項の規定に反しないとした事例
- 譲渡担保権者に対する納税告知は債権者による譲渡担保財産の処分時前にされたものであるから適法であるとした事例
- 酒類を譲渡担保の目的財産とする譲渡担保設定契約が無効又は課税庁に対して相対的に無効ということはできないから、譲渡担保財産となっていた酒類が滞納者に帰属するとしてした差押処分は違法であり、したがって、当該差押処分に続く配当処分において滞納国税に配当された金額は、残余金として譲渡担保権者である請求人に交付すべきであるとした事例
- 集合債権譲渡担保契約に基づき譲渡された債権は譲渡担保財産として存続しているとして、国税徴収法第24条の譲渡担保権者に対する告知処分が適法であるとした事例
- 債権譲渡の通知がされた債権を差し押さえた後、譲渡担保財産であるとして譲渡担保権者に対してした告知処分は適法であるとした事例
- 滞納処分により差し押さえた預託金会員制ゴルフ会員権の換価(取立て)等のため必要があるとして、譲渡担保契約に基づき同会員権に関する入会保証金証書を占有する請求人に対してされた同証書の引渡命令は適法であるとした事例
- 国税徴収法第24条の規定に基づく譲渡担保権者に対する告知処分が適法と認められた事例
※最大20件まで表示
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。