アスベストの除去費用は、人為による異常な災害とみることはできないとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2009/02/16 [所得税法][所得控除] 請求人は、所得税法第72条の規定の趣旨からすれば、同条に規定する「災害」とは、納税者の意思に基づかない事象をいうのであり、本件においては、本件建物の建築当時には合法であったアスベスト部材が、その後、科学的に人体に極めて有害であることが判明し、本件建物解体時にはアスベストの含有量調査及びその除去について法令により義務付けられるまでに至ったものであり、この一連の事象が納税者の意思に基づかない事象として同条に規定する「災害」に該当する旨主張する。
しかしながら、所得税法第72条に規定する「災害」の語義として、それを「納税者の意思に基づかない事象」とすることは広きに過ぎ、雑損控除の範囲を適切に画することができなくなることからすれば、「納税者の意思に基づかない事象」のみをもって同条に規定する「災害」に該当するとの考えは法解釈としては妥当ではなく、所得税法第2条第27号及び同法施行令第9条の規定からすれば、災害とは、自然界に生じた天災ないしはそれと同視すべき事象を指すものであり、また、人為によるものであっても、鉱害、火薬類の爆発など自然界に生じた天災と同視すべき劇的な過程を経て害を被る事象をいうものと解するのが相当である。
また、請求人は、上記のとおり一連の事象が所得税法第72条に規定する「災害」に該当する旨主張するが、なおあいまいで特定された主張とはいい難いところ、本件においては、いかなる事象を所得税法第2条第27号を受けた同法施行令第9条に規定する「人為による異常な災害」に該当するものとして検討するかによって判断内容は異なるものとなる。
すなわち、請求人の主張を「建物の解体の際にアスベストが発見されたことによりアスベストの除去作業等を法令により義務付けられるに至ったこと」が「災害」に該当するとの主張と解し、「人為による異常な災害」とみることができるかを検討すると、法令によりアスベストの除去作業等が義務付けられたのは、作業の過程において飛散するアスベストを作業員等が吸引することによる健康障害の発生を防止するためであり、従来建材等に広く使用されていたアスベストが、人の健康上危険視されてその使用が禁止され、除去作業等の費用負担を余儀なくされたこと自体は、予見及び回避不可能であり、納税者の責めに帰すべきものではなく、納税者の意思に基づかないものとしても、除去作業等の義務が課せられ、これを行ったこと自体は法令に基づく要請であり、かつ、その費用負担も受忍すべきものというべきであるから、かかる法令に基づき費用負担が生じたこと自体を上記「人為による異常な災害」とみることはできない。
平成21年2月16日裁決
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- アスベストの除去費用は、人為による異常な災害とみることはできないとした事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(所得税法>所得控除)
- ソープランドに勤務する女性に交付した金員が所得税法第72条[雑損控除]第1項に規定する横領による損失に該当する旨の請求人の主張が排斥された事例
- 身体障害者更生施設への入所に係る利用者の費用負担として支払った利用者負担金は医療費控除の対象とはならないとした事例
- 自然医食品等は薬事法に規定する医薬品に該当しないから、医師の処方により購入しても、その購入費は医療費控除の対象にならないとした事例
- 平成18年分については、請求人が養育費の送金は行っておらず長男と「生計を一にするもの」には該当しないことから、また、平成19・20年分については、元妻が請求人より先に勤務先に対し長男を扶養親族とする旨の扶養控除等申告書を提出していることから、いずれの年分も請求人において長男を扶養親族とする扶養控除の適用は認められないとした事例
- 配偶者名義で支払われた義援金について、確定申告書の提出後に発行された当該義援金に係る受領証等からみて寄付金控除の適用が認められるとした事例
- 預金通帳等が盗まれたことに伴う損失は、実質的にみて雑損控除の対象となる盗難による損失に当たるとした事例
- 地方公共団体への土地の寄付が、所得税法第78条第2項第1号に規定する「その寄付をした者がその寄付によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別な利益がその寄付をした者に及ぶと認められるもの」に該当するとした事例
- 医師に対する謝礼金等は医療費控除の対象になる医療費に当たらないとした事例
- 請求人が、支給された賞与から支払った寄付金である旨主張する金額は、勤務先法人がその関連法人に寄付すべき金額を請求人の賞与に上乗せしたものであり、請求人の寄付金控除は認められないとした事例
- オートバイ(400c.c.)の盗難になる損失控除の対象にならないとした事例
- 配偶者出産費の付加金は、医療費控除の対象となる医療費を補てんする保険金、損害賠償金その他これらに類するものに該当するとした事例
- 糖尿病患者の自宅における食事療法のための食事代は医療費控除の対象にならないとした事例
- 共有建物を分割した場合の取壊しによる損害は雑損控除の対象となる災害による損失に該当しないとした事例
- 近視用コンタクトレンズ及び乱視用眼鏡の購入費用は医療費控除の対象となる医療費に該当しないとした事例
- 保証債務の履行により生じた求償権の行使不能による損失は雑損控除の対象にはならないとした事例
- 台風により被害を受けた宅地の擁壁工事の費用の額は、雑損控除の対象とされている「原状回復のための支出」に当たるとした事例
- 扶養控除に関する事項を記載した損失申告書を提出したことによって扶養親族の所属を選択したものとした事例
- マンション工事業者による隣接土地の堀削と集中降雨が原因で生じた居宅に係る災害損失について雑損控除を適用した事例
- 年の中途で死亡した者の控除対象配偶者に該当するかどうかは、死亡時の現況により見積もったその年の1月1日から12月31日までの配偶者の合計所得金額により判定すべきであるから、配偶者控除は適用できないとした事例
- 請求人が被った紳士録の掲載料や登録抹消料として支出した金員に係る損失は、詐欺ないし恐喝により生じたものであるから雑損控除の対象とはならないとした事例
※最大20件まで表示
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。