滞納者の破産手続開始決定後に行われた滞納者を譲渡担保設定者とする譲渡担保債権についての滞納処分が破産法第43条第1項の規定に反しないとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2008/03/03 [租税特別措置法][登録免許税法の特例] 譲渡担保の目的とされた将来生ずべき債権については、遅くともそれが発生したときに譲渡担保権者に移転すると解されるところ、本件譲渡担保債権は、滞納法人についての破産手続開始決定前に発生し、債権譲渡登記により債権譲渡の対抗要件を備えていたことからすれば、本件譲渡担保債権は破産財団を構成しないものと認められる。
また、譲渡担保財産は完全に譲渡担保権者に移転するのではなく、譲渡担保設定者にも一定の物権が帰属するとの理論に立脚したとしても、破産手続において譲渡担保権は別除権と同様に取り扱われるものと解されていることからすれば、譲渡担保の被担保債権の弁済期が経過した後に設定者について破産手続が開始された場合、破産管財人は担保権者による別除権の行使としての譲渡担保権の実行を受忍する立場に立たされるものと解され、また、別除権者が法律に定められた方法によらないで別除権の目的財産を処分する権利を有するときは、裁判所は破産管財人の申立てによって別除権者がその処分をすべき期間を定めることができ、当該期間内に別除権者が目的財産を処分しないときに別除権者の処分権が失われることからすれば、譲渡担保の被担保債権の弁済期が到来した後に設定者について破産手続が開始された場合、その目的財産についての担保権者の処分権が失われるまでは、その目的財産の管理処分権が破産管財人に専属することはないと解されるのであるから、当該財産は破産財団を構成しないものと解される。さらに、国税徴収法第24条の規定は、すべての担保制度が租税の徴収の面からはできるだけ同一の取扱いを受けることが望ましいとの観点に立って設けられたものであり、その趣旨は、滞納者について破産手続開始の決定があった場合にも尊重されなければならないところ、別除権の実行が民事執行法その他の強制執行の手続に従って行われるときは、交付要求をすることによって国税が別除権の被担保債権に優先して配当を受けることになるが、譲渡担保の場合は、別除権の実行が私的実行の方法によって行われ、交付要求ができないため、破産手続開始後における譲渡担保財産に対する滞納処分が許されないとすれば、滞納者について破産手続が開始されたことによって、本来、国税に劣後して配当を受けるべきであった別除権の被担保債権が国税に優先して配当を受けるという極めて不合理な結果をもたらすことになるのであるから、破産手続開始後であっても譲渡担保財産に対する滞納処分は許容されると解される。
これを本件についてみると、本件債権譲渡担保契約に係る被担保債権は、滞納法人についての破産手続開始の申立てによって弁済期が到来し、請求人が本件譲渡担保債権の第三債務者に対して債権譲渡登記がされている旨を通知したことにより、譲渡担保権の実行を開始したと認められるのであるから、本件譲渡担保債権は、破産財団を構成するものではないと解され、原処分庁がした滞納処分は国税徴収法第24条の趣旨に沿ったものと認められるから、破産法第43条の規定に反しないというべきである。
なお、破産法第43条第1項にいう国税滞納処分とは、国税の徴収に従事する職員が自ら強制換価手続を行って国税の徴収を図る手続をいうのであるから、国税徴収法第24条第2項の告知処分が同条の国税滞納処分に当たらないことは明らかである。
平成20年3月3日裁決
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- 滞納者の破産手続開始決定後に行われた滞納者を譲渡担保設定者とする譲渡担保債権についての滞納処分が破産法第43条第1項の規定に反しないとした事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(租税特別措置法>登録免許税法の特例)
- 譲渡担保権者の物的納税責任に係る納付告知処分及び譲渡担保財産に対する差押処分について、その一部は譲渡担保財産ではないとした事例
- 相続税に係る本来の納税義務者に対する時効の中断及び停止の効果が連帯納付義務者にも及ぶとした事例
- 差し押さえた株券に係る権利が滞納者に帰属するとの推定を覆す事実は認められず、また、当該株券に係る権利の取得につき滞納者に悪意又は重過失があったことを認めるべき証拠もないとして、当該権利が自己に帰属する旨の請求人の主張を排斥した事例
- 国税通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められるものがある場合」には、過少に税額を申告したことが納税者の税法の不知又は誤解であるとか、納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないとした事例
- 滞納処分により債権差押えをする場合、全額差押えを原則としており、被差押債権の範囲を一部とするか否かは徴収職員の裁量に任されていて、その濫用が認められない限り、債権の全額差押えは違法とはいえないとした事例
- 滞納処分により差し押さえた預託金会員制ゴルフ会員権の換価(取立て)等のため必要があるとして、譲渡担保契約に基づき同会員権に関する入会保証金証書を占有する請求人に対してされた同証書の引渡命令は適法であるとした事例
- 更正が遅延したとしても延滞税の納税義務の成立には何らの影響を及ぼさないとした事例
- 連帯納付義務者Lから不動産の贈与を受けた者に対して行われた国税徴収法第39条の規定に基づく第二次納税義務の告知処分が適法であるとした事例
- 家屋について、所有権移転登記を受けた後において、租税特別措置法第74条の2に規定する登録免許税の税率の軽減を受けるために必要な証明書を提出しても、既に納付した登録免許税の還付を受けることはできないとした事例
- 被差押債権の第三債務者は、当該差押処分に対して審査請求ができる法律上の利益を有しないとして審査請求を却下した事例
- 職務に直接関与しない清算人に対する第二次納税義務の告知処分について適法であるとした事例
- 消費税等の税額が法定申告期限内に納付され、これに係る確定申告書が法定申告期限後に提出された場合の無申告加算税の賦課決定処分は適法であるとした事例
- 告知処分時において譲渡担保の目的とされた債権が譲渡担保財産として存続していたとした事例
- 告知処分時において譲渡担保権の実行は完了しておらず、被担保債権は消滅していないから、譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分は適法であるとした事例
- 課税仕入れに係る支払対価の額に翌課税期間に納品されたパンフレット等の制作費を含めたことについて、隠ぺい仮装の行為はないとした事例
- 一人の扶養親族につき、重複して扶養控除を受けている事実を知ることができなかったとしても、それは請求人の単なる主観的な事情であるから、国税通則法第66条第1項の正当な理由があると認められる場合に当たらないとした事例
- 中小企業を倒産させないことが国の方針であるとしても、租税の徴収手続において、中小企業の倒産を防止するためにその手続を制限する法令上の定めがない以上、これを裁量判断の基礎とすることができないとした事例
- 譲渡制限の存する信用組合の組合員の持分に対する差押えを適法とした事例
- 外国人であり日本で翻訳・通訳業に従事する請求人について、納税地特定のための住所の認定、各課税通知書及び繰上請求書を差置送達の方法で送達したことの適法性、請求人への繰上請求の適法性、差押処分の適法性などについて、請求人の主張を排斥した事例
- 居住の用に供していない譲渡物件の所在地に住民登録をしていた者が、納税相談時に担当職員に虚偽の申立てをする等し、申告書を作成させ提出したことは、隠ぺい又は仮装の行為に該当するとした事例
※最大20件まで表示
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。