いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失は、雑損控除の対象となる災害又は盗難若しくは横領による損失には当たらないとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2011/05/23 [所得税法][所得控除]《ポイント》 所得税法第72条に規定する雑損控除は、同条第1項により、「居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令に定めるものの有する資産について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合において」適用するものである。
この事例は、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らし「災害又は盗難若しくは横領」による損失に当たるか否か、又は「災害」による損失、「盗難」による損失若しくは「横領」による損失のいずれかの損失に当たるか否かが争われたものである。
《要旨》 請求人は、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失(本件損失)が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らせば所得税法第72条《雑損控除》第1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領」による損失、又は「災害」による損失、「盗難」による損失若しくは「横領」による損失のいずれかの損失に当たる旨主張する。
しかしながら、「災害」、「盗難」及び「横領」はいずれも別個の概念であること、また、上記詐欺の犯人が指定した口座に3回にわたり振込送金した請求人の行為(本件各振込み)自体が、請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「災害」による損失に当たらないこと、「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する第三者による当該財物の占有の移転」と解されるところ、本件各振込みが請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「盗難」による損失に当たらないこと、「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解されるところ、請求人が振り込んだ金銭に対する所有権は本件各振込みを終えた時点で、当該金銭に対する占有とともに上記詐欺の犯人側へ移転したと認められ、当該犯人はそもそも請求人の物の占有者ではないから、本件損失は「横領」による損失に当たらないことから、本件損失は、所得税法第72条第1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領による損失」には当たらない。
《参照条文等》 所得税法第2条第1項第27号、第72条第1項 所得税法施行令第9条
《参考判決・裁決》 最高裁平成19年4月17日第三小法廷判決(民集61巻3号1026頁) 京都地裁平成8年6月7日判決(税資216号511頁) 最高裁昭和24年3月8日第三小法廷判(刑集3巻3号276頁) 大審院明治42年8月31日判決(刑録15輯1097頁) 平成21年2月16日裁決(裁決事例集No.77)
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失は、雑損控除の対象となる災害又は盗難若しくは横領による損失には当たらないとした事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(所得税法>所得控除)
- 特別養護老人ホームへの入所に伴い、市に対して支払った老人福祉法の規定に基づく措置費徴収金は、医療費控除の対象にならないとされた事例
- 寡婦控除の適用要件の一つである「夫」とは、身分法の基本法たる民法が定める婚姻関係にある男子を意味するものであるとした事例
- マンション工事業者による隣接土地の堀削と集中降雨が原因で生じた居宅に係る災害損失について雑損控除を適用した事例
- 医師に対する謝礼金等は医療費控除の対象になる医療費に当たらないとした事例
- 自然医食品等は薬事法に規定する医薬品に該当しないから、医師の処方により購入しても、その購入費は医療費控除の対象にならないとした事例
- 生計を一にする親族について、請求人と請求人の夫がいずれもその扶養親族として申告している場合には、所得税法施行令第219条第1号に規定するところにより、いずれの扶養親族に該当するかを判断すべきであるとした事例
- 山林の譲渡代金は横領されたものではないから所得税法第72条の雑損控除の対象にはならないとした事例
- 郷里に所在する病院で出産するために要した郷里旅費は医療費控除の対象となる医療費に該当しないとした事例
- 平成18年分については、請求人が養育費の送金は行っておらず長男と「生計を一にするもの」には該当しないことから、また、平成19・20年分については、元妻が請求人より先に勤務先に対し長男を扶養親族とする旨の扶養控除等申告書を提出していることから、いずれの年分も請求人において長男を扶養親族とする扶養控除の適用は認められないとした事例
- 身体障害者更生施設への入所に係る利用者の費用負担として支払った利用者負担金は医療費控除の対象とはならないとした事例
- 糖尿病患者の自宅における食事療法のための食事代は医療費控除の対象にならないとした事例
- 台風により被害を受けた宅地の擁壁工事の費用の額は、雑損控除の対象とされている「原状回復のための支出」に当たるとした事例
- 被相続人が宗教法人の敷地に接する市道の改修工事に係る費用を負担したことは、宗教法人に対する寄付に当たり、市に対する寄付に当たらないとして寄付金控除の適用を認めなかった事例
- 特別養護老人ホームの措置費の一部負担金は医療費控除の対象となる医療費に該当しないとした事例
- 配偶者分べん費は、医療費控除の対象となる医療費を補てんする保険金、損害賠償金その他これらに類するものに該当するとした事例
- 会社員である請求人所有の自動車は雑損控除の対象となる「生活に通常必要な動産」には当たらないとした事例
- 既に妻の扶養親族となっている子らについて、国税通則法第23条第1項に基づく更正の請求によって、請求人の扶養親族に変更することはできないとした事例
- 居宅サービス計画に医療系サービスが伴わない場合の居宅サービスの対価は医療費控除の対象とはならないとした事例
- ソープランドに勤務する女性に交付した金員が所得税法第72条[雑損控除]第1項に規定する横領による損失に該当する旨の請求人の主張が排斥された事例
- アスベストの除去費用は、人為による異常な災害とみることはできないとした事例
※最大20件まで表示
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。