建物貸付けは、同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであり、貸付けに係る維持管理等の程度が実質的には相当低いとして、不動産所得を生ずべき事業に当たらないとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2007/12/04 [所得税法][所得の種類][不動産所得] 請求人は、資産の取得に係る投資額(借入金)の多寡を重要視すべきであること、事業とは、社会通念に照らして事業と認められるものすべてを含み、事業所及び人的・物的要素を結合した経済的組織を必ずしも必要とせず、本件貸付けは十分に自己の危険を持ち得る事業といえること、また、総合ビジネスを視野においた事業を行うという計画を基に建築、事業経営を行っているという現状にかんがみると、本件貸付けは不動産所得を生ずべき事業に該当すること、さらに、東京高裁平成13年7月11日判決の中で挙げられている事業規模の判断基準に照らし合わせた場合、本件貸付けは事業に該当するとも主張する。
しかしながら、不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、取引の目的、事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。
本件貸付けについては、営利性、継続性、人的・物的設備など部分部分としてみた場合は直ちに事業ではないということはできない要素も認められるが、本件貸付けは、本件同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであり、平成5年借入金は、請求人の税理士事務所等として使用することを目的とした本件建物の建設資金等であったこと及び本件借入金の年間返済額は、本件貸付けの年間賃貸料収入を上回っており、本件貸付けに係る賃貸料収入以外の収入も原資となっていること、また、本件同族会社2社の賃貸料は、それぞれの法人の収入及び人員割合が計算の根拠となっていることからすると、請求人における事業遂行上その企画性は乏しく、危険負担も少ないと認められる。また、本件建物は、その構造からみて他に賃貸が可能である等の汎用性が少ないなど、これらの点における請求人の自己の危険と計算による事業遂行性は希薄であると認められる。
さらに、本件建物の設備等の管理・修理点検等は請求人が行っているものの、清掃及び冷暖房設備点検、ビルの防犯・火災のセキュリティ契約等は本件同族会社2社が行っていること、賃貸料の集金等はインターネットバンキングにより振替処理されていること、また、本件貸付物件は本件同族会社2社及び親族に継続して貸し付けられていることから、請求人にとって賃借人の募集等をする必要はなく、賃貸料の改定交渉等の業務の煩雑さもなく、ビル管理業務等の負担も軽微であることから、本件貸付けに費やす精神的・肉体的労力の程度は、実質的には相当低いと認められる。
これらの諸点を総合勘案すると、本件貸付けは、社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められないと判断するのが相当である。
平成19年12月4日裁決
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- 建物貸付けは、同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであり、貸付けに係る維持管理等の程度が実質的には相当低いとして、不動産所得を生ずべき事業に当たらないとした事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(所得税法>所得の種類>不動産所得)
- 客船の船室及び船内施設を他人に利用させるなどして得た所得は雑所得に該当するとした事例
- 建物貸付けは、同族会社2社及び親族に対する限定的かつ専属的なものであり、貸付けに係る維持管理等の程度が実質的には相当低いとして、不動産所得を生ずべき事業に当たらないとした事例
- 請求人が買い受けた不動産の売買代金の支払に代えて引き受けた債務の免除は、請求人の経済的利益に当たるから、不動産所得の総収入金額に算入するのが相当であるとした事例
- 中途解約に伴い賃借人に対し返還不要となった敷金及び建設協力金は、不動産所得の収入金額に当たるとするとともに、当初申告で平均課税の適用をしていないことに「やむを得ない事情」があると認められないとした事例
- 大規模なコンクリート基礎工事によって土地に固着された工場据付機械等の賃貸による所得は不動産所得に当たるとした事例
- 請求人が返還を求めている土地を使用(占有)している者から受領した金員について、請求人が本件土地を自ら使用収益することができなくなったことの対価として支払われたものとするのが相当であることから、所得税法施行令第94条第1項第2号の規定に該当するとして、不動産所得の総収入金額とした事例
- 不動産賃貸に係る土地と建物(マンション)を一括購入した場合の減価償却資産となる建物本体と建物附属設備の取得価額の算定方法について争われた事例
- 自己の所有する農地を土砂の仮置き場として地方公共団体に使用させたことに伴い受領した損失補償金は、不動産所得に該当するとした事例
- 建物賃貸借契約の合意解約に伴う残存期間賃料は、中途解約に伴う賃料収入に対する補償であり、不動産の貸付けにより生ずべき収入金額に代わる経済的利益と認められるから、不動産所得の総収入金額に当たるとした事例
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。