少人数私募債とは
社債を発行すれば、無税で資金調達することができます。ただし、社債発行は、原則的に金融商品取引法と会社法により規制されているので、手間や費用がかかります。
中小企業の場合、「少人数私募債」という社債の発行をお勧めします。少人数私募債であれば、金融商品取引法や会社法の規制を受けることなく社債発行ができるので、自社内で全作業を完結させることも可能となります。
なお、税制改正により、役員等が受け取る少人数私募債の利息については、源泉分離課税ではなく総合課税となっています。
少人数私募債のメリット
以下のようなメリットがあります。
- 無税で資金調達できる。
- 社債管理者の設置が不要(各種手数料が不要)。
- 各種届け出が不要。
- 保証や担保が不要。
- 利率や償還期間を自由に設定可能。
少人数私募債の制限
以下のような制限があります。
- 社債総額の上限が1億円未満。
- 50人未満にしか勧誘できない。
- 不特定多数の人に勧誘できない。
少人数私募債で節税する(役員退職金の原資)
役員
退職金には様々な税制優遇措置がありますが、法人税において損金算入する要件の1つに、実際に支給することが挙げられます。未払金計上では、原則として損金算入できないのです。
- No.5208 役員の退職金の損金算入時期 | タックスアンサー(国税庁)
会社のキャッシュが不足しているときなど、
退職金の原資として少人数私募債の活用を検討します。この場合、役員
退職金を受け取る役員が、少人数私募債を全額引き受けることになります。
以下のケースで考えてみます。
- 役員報酬:月100万円(年1,200万円)
- 役員在任年数:10年
- 功績倍率:3倍
- 役員退職金:3,000万円(=100万円×10年×3倍)
上記の役員
退職金3,000万円の原資として、少人数私募債3,000万円を発行し、退任する役員が100%引き受けます。
- 少人数私募債:3,000万円(=1口300万円×10口)
- 利率:5%
- 受取利息:年150万円
- 償還期間:10年
受取利息(年150万円)は総合課税となりますが、退任して高額な
役員報酬(年1,200万円)がなくなった分、源泉分離課税(約20%)よりも所得税の実効税率が低くなります。また、償還期間を延長することもできるので、弾力的な資金繰りも可能です。
少人数私募債で節税する(小分けして毎年贈与)
少人数私募債を贈与することを検討します。
例えば、1口300万円と小分けにして発行された少人数私募債3,000万円(=1口300万円×10口)を、10年間に渡って1口ずつ毎年贈与するケースを考えてみます。
メリットは以下の通りです。
- 年300万円の場合、贈与税の最低税率で財産移転ができる。
- 取引文書(所得税の確定申告書や社債台帳など)が確実に残るので、税務署と争いが生じない。
- キャッシュを動かす必要がない。
少人数私募債の1口金額を変えることで、贈与額や
贈与税率を調整できるので、弾力的な節税が可能となります。
少人数私募債で節税する(信託して元本受益権を贈与)
少人数私募債を贈与する前に、少人数私募債を信託する方法もあります。
最大のポイントは、信託財産(少人数私募債)を、利息の受取権と元本の受取権に切り離すことです。
- 収益受益権(利息の受取権)
- 元本受益権(元本の受取権)
そして、信託財産のうち、上記2.の元本受益権(元本の受取権)だけを贈与します。
財産評価基本通達202(3)によると、収益を受け取る者と元本を受け取る者が異なる場合、評価額はそれぞれ以下の通り計算されます。
- 収益受益権(利息の受取権)… 将来受けるべき利益の割引現在価値
- 元本受益権(元本の受取権)… 信託財産-収益受益権
収益受益権(利息の受取権)は、「1年目の利息×複利現価率」+「2年目の利息×複利現価率」+「3年目の利息×複利現価率」…のように計算します。
www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu...
以下のケースで考えてみます。
- 信託財産:少人数私募債3,000万円(※利率5%)
- 年間収益:150万円
- 信託期間:10年
- 委託者:本人
- 受託者:少人数私募債を発行した会社
- 収益受益者:本人
- 元本受益者:子供
この場合、元本受益権を子供に贈与しますが、本人は10年間に渡って利子を年150万円受け取ることができます。単純な贈与と異なり、信託期間中については、本人が信託財産をコントロールできるというメリットもあります。信託期間終了時、信託財産(少人数私募債)の名義は子供に書き換えられます。
また、信託財産はそれぞれ以下のように評価されます。
- 収益受益権(利息の受取権)… 11,584,500円
- 元本受益権(元本の受取権)… 18,415,500円
贈与額は、元本受益権18,415,500円となるので、収益受益権11,584,500円の分だけ
贈与税額が圧縮されることになります。
ただし、贈与年に本人が亡くなった場合、収益受益権11,584,500円が相続財産になるので、
贈与税と相続税をトータルで考えると節税効果はゼロです。
節税効果が出てくるのは贈与年より後のことです。収益受益権の評価額(相続財産)は毎年逓減していくので、相続税の負担も次第に減ります。信託期間満了の10年以降は、収益受益権の評価額がゼロになるので、節税効果が極大化されます。
信託財産(少人数私募債)の利率が変わると、元本受益権の評価額(割引現在価値)も大きく変わります。元本受益権の評価額は、利率10%であれば11,568,000円に、利率3%であれば22,323,900円になります。すなわち、信託財産の利率が高いほど、
贈与税の節税効果が高まります。
また、信託期間が変わると、元本受益権の評価額(割引現在価値)も大きく変わります。元本受益権の評価額は、信託期間が20年であれば11,306,684円に、利率5年であれば23,505,785円になります。すなわち、信託財産の信託期間が長いほど、
贈与税の節税効果が高まります。
なお、受託者については、外部の投資会社に任せることや、本人が兼ねること(自己信託)も可能です。
少人数私募債で節税する(信託した元本受益権を小分けして毎年贈与)
少人数私募債の信託の応用として、元本受益権を小分けして毎年贈与することを検討します。
例えば、1口300万円と小分けにして発行された少人数私募債3,000万円(=1口300万円×10口)の元本受益権を、10年間に渡って1口ずつ毎年贈与するケースを考えてみます。
1口300万円の元本受益権の評価額は、以下のように逓増していきますが、300万円を超えることはありません。
- 1年目:1,841,740円
- 2年目:1,933,827円
- 3年目:2,030,518円
- 4年目:2,132,044円
- (省略)
- 10年目:2,857,143円
1口300万円を単純に毎年贈与することに比べると、
贈与税の負担が軽減されます。
少人数私募債の要件
以下の要件を全て満たす場合、少人数私募債として取り扱われます。
- 取得勧誘先が適格機関投資家を除く50人未満 … 金融商品取引法施行令第1条の七(取得勧誘において少人数向け勧誘に該当する場合)
- 社債が1億円未満 … 会社法第702条(社債管理者の設置)
- 社債総額が社債1口(最低金額)の50倍未満 … 会社法施行規則第169条(社債管理者を設置することを要しない場合)
- 譲渡制限や分割禁止の規定を設けること
少人数私募債の手続き
以下のような手続きが必要となります。
- 取締役会の決議
- 募集要項の作成
- 社債申込証の作成
- 社債原簿(社債台帳)の作成