節税と脱税と租税回避行為の境界
節税と脱税と租税回避行為節税を検討する際、避けて通れない問題として、当該行為が法令に抵触するか否かということが挙げられます。すなわち、脱税や租税回..
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節税と脱税と租税回避行為
節税を検討する際、避けて通れない問題として、当該行為が法令に抵触するか否かということが挙げられます。すなわち、脱税や租税回避行為に該当する可能性を考慮する必要があるのです。これらの違いは以下の通りです(脱税、過少申告、無申告、租税回避行為、節税の違い参照)。
- 節税
- 合法的かつ取引に合理性がある場合。
- 租税回避行為
- 合法的だが、取引に合理性がない場合。
- 脱税
- 偽りその他不正の行為により税を免れた場合。
節税・脱税・租税回避行為について、1つずつ確認していきます。
節税であれば、何も問題ありません。
脱税であれば、刑事事件として告発され、懲役や罰金を受ける可能性が高いですし、更に仮装隠蔽行為があれば重加算税の対象となります。社会的制裁と経済的制裁により、多大なダメージを受けます。よって、脱税は論外です。
租税回避行為の場合、やや状況は複雑になります。原則的にペナルティーはありませんが、以下の要件を前提とします。
- 仮装隠蔽行為がないこと。
- 税務調査で否認されないこと。
上記1.について。仮に仮装隠蔽行為があった場合、偽りその他不正の行為がない限り、刑事罰はありませんが、重加算税という行政罰を受けます。
上記2.について。仮に税務調査で否認された場合、刑事罰はありませんが、過少申告加算税という行政罰を受けます。
注意すべきは、上記1.の「仮装隠蔽行為」です。
担当者によって税務調査のやり方が変わります。中には強引なやり方を躊躇しない税務署員も存在します。
税務調査の担当者によっては、「仮装隠蔽行為」と強引に認定する可能性があります。最悪の場合、「仮装隠蔽行為=偽りその他不正の行為」という論理で査察に切り替えられ、脱税事件として告発されるおそれも生じます。これだけは何としても避けなければなりません。
そのためには、租税回避行為として認定される可能性を、限りなく低くすることが求められます。リスクヘッジです。
「租税回避行為」認定を避ける
租税回避行為と認定される可能性がある場合、以下の3つを固めることが必要不可欠だと考えます。- 形式と実体の一致
- 法令等の順守
- 証憑の作成
1.形式と実体の一致
法令の定めがない限り、行政は税金を徴収することはできません(租税法律主義。憲法84条)。他方、税金は形式的ではなく実質的な所得者に課税されます(実質課税の原則。法人税11条等)。すなわち、当該行為の形式と実体を一致させることができれば、税務署との争いが生じる可能性が低くなります。もちろん、法令等に違反しないことが前提となります。
2.法令等の順守
法令等に違反しないことが前提ですが、この「法令等」には定款や社内規程等を含みます。法令に基づいて適切に作成された定款や社内規程については、法令と同様の効力が生じます。特に、法人の最高議決機関において適切に定められた定款や社内規程については、税法とは別に会社法の影響を受けることになります。
すなわち、会社法に基づいて適切に定められた社内規程に従い、適切に運用・処理されていれば客観性が担保されるので、恣意性を排除することに繋がり、ひいては税務署との間で争いが生じにくくなります。
ここで最も重要なのは、社内規程を適切に定めることと、適切に運用することです。何が適切かは、判例や他社の社内規程等が参考になります。
3.証憑の作成
所得税や法人税といった申告納税制度においては、税務署による推計課税が認められる場合を除き、納税者に証明責任があります。この場合、税法に則って適切に処理されていることを、証憑(請求書や領収証等)により証明することが最も効果的です。他方、税務調査で納税者の行為を否認する際、税務署には反証責任があります。税務署が否認するためには、納税者の証明を覆すだけの合理的な反証を示す必要があります。
現実的には、税務署が、事実に基づく証憑以上の反証をすることは容易ではありません。ただし、事実に基づくことなく遡って作成するなど、虚偽の証憑である場合、証憑が証明にならないどころか、仮装隠蔽行為と認定され、重加算税が課せられるおそれも生じます。
よって、証憑を作成する際、事実に基づくことが大前提となります。
節税と脱税と租税回避行為の境界
税務署が反証できない状況を作り上げることができるか否かが、節税と脱税と租税回避行為の境界になると思われます。そのためには、形式と実体の一致と法令等の順守、そして証憑の作成が重要です。適切に定められた社内規程等に従い、事実に基づく証憑を作成するなど、適切に運用されていれば、脱税はもちろん、租税回避行為とみなされることはないとでしょう。
これらを実行するのは、さほど難しいことではありません。ただし、継続させるのは難しいかもしれません。
いずれにせよ、適切に運用できるかどうかが最大のポイントとなります。そのためには、社内体制の整備が必要不可欠だと思われます。