請求人は、本件相続税の延納担保であった本件担保不動産の売却代金から本件相続税を徴収することができたはずであるにもかかわらず、差替担保の設定や本件相続税の徴収をすることなく本件担保不動産に設定されていた本件抵当権を解約したことに重大な過失があるから、原処分庁が行った本件相続税の連帯納付義務についての本件督促処分は権利の濫用に当たると主張する。
しかしながら、相続税の本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続が、本来的に別個独立の手続であることからすれば、国税当局が本来の納税義務者に対する徴収手続を適正に行わなかった結果、本来の納税義務者から徴収することができなくなったという事実があったとしても、その事実は相続税の連帯納付義務の存否又はその範囲に影響を及ぼすものではないから、国税当局が他の相続人等に対し連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を進めたとしても、これをもって徴収権の濫用と評価することはできない。もっとも、相続税の連帯納付義務は、法が相続税の徴収を確保するために、相続人等に課した特別の責任であることからすれば、本来の納税義務者が現に十分な財産を有し、同人から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、国税当局が本来の納税義務者又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に本来の納税義務者からの徴収を行わず、相続税法第34条第1項の規定に基づき、他の相続人等に対して滞納処分を執行したというような場合には、他の相続人等に連帯納付義務の履行を求めることが形式的には租税法規に適合するものであっても、正義公平の観点からみて徴収権の濫用に当たると評価すべき場合もあり得ると解される。
本件においては、本件相続税の滞納者又は第三者の利益を図る目的をもって、差替担保の提供を受けず、必要額の支払も受けずに、恣意的に抵当権の抹消手続を行ったと評価すべき事実は認められないから、仮に抵当権の抹消の際の判断に誤りがあり、請求人が主張するとおりの事実によって本件相続税の徴収が図られなくなったとしても、そのことをもって本件督促処分が権利の濫用に当たるものということはできない。
請求人は、民法第504条の類推適用又は国税通則法第41条第2項の適用により、連帯納付義務が免責される旨主張するが、相続税法、国税通則法及び国税徴収法のいずれにも民法第504条の準用又は類推適用による相続税の連帯納付義務の消滅を根拠付ける趣旨は見当たらず、連帯納付義務者はその徴収手続において本来の納税義務者と別個独立した関係にある点からも、同条を連帯納付義務者に類推適用することは相当でなく、また、国税通則法第41条第2項は、納税者に代わって国税を納付した者はその取得した求償債権の限度で納付した国税の担保たる抵当権につき国に代位することができる旨を規定するだけで、国に対して抵当権の保存を義務付けるものと解することはできないから、請求人の主張には理由がない。
平成20年4月1日裁決
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