請求人らが限定承認により相続した不動産を債務弁済のために譲渡したところ、原処分庁が所得税法第59条第1項の規定を適用して被相続人についてみなし譲渡所得の課税を行った処分が適法なものとされた事例
裁決事例(国税不服審判所)
1999/11/26 [所得税法][所得計算の特例][交換の特例] 請求人らは、限定承認により相続した不動産を債務弁済のために譲渡したところ、原処分庁は、所得税法第59条第1項の規定を適用し、被相続人についてみなし譲渡所得の課税を行った。
請求人らは、本件においては、本件譲渡に係る譲渡所得課税のみを行うこととするほうが本件共同相続人の利益になることから、相続人の保護という限定承認の趣旨に立ち返って本件法規定を解釈し、被相続人に係るみなし譲渡所得課税は行われるべきではない旨主張する。
しかしながら、本件法規定は、被相続人の所有期間中における資産の値上がり益を被相続人の所得として課税し、これに係る所得税額を債務として清算することにより、限定承認をした相続人が相続財産を超えて負担することがないように規定されているものであり、本件法規定にいう限定承認の意義については民法の規定と同義に解することが相当であって、請求人らは限定承認によって本件不動産を取得しているのであるから、被相続人についてみなし譲渡所得課税が行われたのである。
なお、請求人らは、本件法規定が適用される結果、適用されない場合よりも納付すべき税額の点で不利益となり、限定承認により保護される相続人の利益が保護されないこととなるとも主張するが、限定承認の制度は、被相続人の債務等の額自体を縮減することによってではなく、相続によって得た財産の限度において当該債務等の弁済の責任を負わせることにより、相続人の保護を図ろうとするものであって、納付すべき税額の多寡は限定承認の機能とは別個のものであるから、請求人らの主張には理由がない。
次に、請求人らは、仮に本件法規定が文言のとおり適用されるとしても、本件譲渡は、相続債権者への公告及び催告もせず、また、民法が定める換価手続である競売にもよらずに譲渡している上、譲渡代金のうち債務弁済後の残額を自己のために消費しているので、民法第921条第3項に規定する「私にこれを消費」に該当し、単純承認したものと見なされるから本件法規定を適用することはできない旨主張する。
しかしながら、競売によらずに任意売却等したとしても、これらは単に手続違反にとどまり、限定承認の効力には影響を及ぼさないものと解されており、また、本件譲渡は債務弁済のために行った正当なものであって、債務弁済後の残額を共同相続人間で分配したものであるから、「私にこれを消費」したことには該当しないと解され、請求人らの主張は採用することができない。
平成11年11月26日裁決
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
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