請求人の元理事長らが不正行為により流用等した金員等は、当該元理事長らに対する給与所得又は退職所得として、請求人は源泉徴収義務を負うと認定した事例
裁決事例(国税不服審判所)
1999/06/17 [所得税法][源泉徴収] 請求人の元理事長が請求人の営む事業に係る人件費及び給食材料費等を架空又は水増し計上するなどの方法によりねん出した資金を簿外口座預金に預け入れた後、当該口座から元理事長名義預金に入金した金員、並びに元理事長の個人的費用に充てるための資金を立替金勘定に計上した後、雑費勘定に振替計上した金員について、請求人は、元理事長がその地位を利用して請求人の資金を不正に引き出したものであり、請求人が賞与として支給したものではない旨主張する。
さらに請求人の元専務理事が、転換社債等を換金して同人名義の預金口座に入金した金員について、請求人は、元専務理事が請求人の資金を不正に引き出したものであるから、請求人が退職金として支給したものではない旨主張する。
しかしながら、元理事長は請求人の設立者として理事長に就任し、退任後も自ら会長と称していたこと、また、自らの親族等を理事長等の役員に就任させていたことからすれば、設立以来、請求人の全運営についての権限を有しその地位等を利用してねん出した簿外資金を簿外口座で管理し、本件簿外口座から元理事長名義預金口座に入金した金員について、元理事長個人の借入金の返済資金等に支出されたと認められるほか、請求人の事業遂行のために使用されたとする証拠もないことからすれば、これを個人的費用に費消していたと認められる。また、雑費勘定に振替計上した金員は、元理事長が個人的な目的のために費消していたことは明らかである。仮に、本件金員及び本件立替金が不正に引き出されたとしても、所得税基本通達36−1が給与所得として収入すべき金額は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない旨定めており、その取扱いが相当であること、返還義務があるとしても所得税法上の所得とは、これを専ら経済的面から把握すべきであると解されるところ、実際に返還されない限り本件金員及び本件立替金は所得を構成するのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
そうすると、これらの金員は所得税法第28条に規定する給与(賞与)所得と認められるので、請求人は、同法第183条第1項に規定する所得税の源泉徴収義務がある。
また、請求人の元専務理事は、[1]平成5年3月31日に請求人を退職したこと、[2]長年にわたり請求人において理事として経理責任者であったこと及び[3]転換社債等を換金した金員を一時金として退職日の直前に受け取っていたことが認められるから、当該金員は退職所得に該当し、当該所得に対する源泉徴収義務者は請求人であると認定するのが相当である。
そして、仮に転換社債等を換金した金員が不正に引き出されたとしても、元専務理事が現実に支配管理しているのであるから、所得税基本通達36−1が退職所得の金額の計算上収入すべき金額は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない旨定めているのであるから、請求人の主張には理由がない。
そうすると、これらの金員は所得税法第30条に規定する退職所得と認められるので、請求人は、同法第199条第1項に規定する所得税の源泉徴収義務がある。
平成11年6月17日裁決
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- 請求人の元理事長らが不正行為により流用等した金員等は、当該元理事長らに対する給与所得又は退職所得として、請求人は源泉徴収義務を負うと認定した事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(所得税法>源泉徴収)
- 源泉徴収の対象となる匿名組合契約に基づく利益の額の計算上、契約内容の異なる別個の匿名組合契約に係る損失の額及び別途支払うこととされている管理費用の額を控除することはできないとした事例
- マネキン報酬について、日額表乙欄、丙欄のいずれを適用するかは、正社員の勤務状況に比較して当該マネキンが継続して2月を超えて就労していたかどうかにより判定すべきであるとした事例
- 損金に算入した養老保険の保険料相当額が、保険金受取人である従業員に対する給与(経済的利益の共与)に当たるとした事例
- 請求人が負担した本件慰安旅行の参加従事員1人当たりの費用の額は、平成5年分192,003円、平成6年分449,918円及び平成7年分260,332円と、社会通念上一般的に行われている福利厚生行事としてはあまりにも多額であるから、当該従事員が受ける経済的利益は、給与所得として課税するのが相当とした事例
- 外国人研修生等が在留資格の基準に適合する活動を行っていないことを理由に日中租税条約第21条の免税規定の適用がないとした事例
- 従業員地位保全・金員支払仮処分申請に係る裁判所の決定に係る給付金支払債務について、その金額につき差押えを執行された場合においても源泉徴収義務があるとした事例
- 簿外普通預金からの払戻金の使途は、代表者からの借入金の返済ではなく代表者に対する給与等の支給であるとした事例
- 役職に変動がなくても労働条件等に重大な変動があり、単なる従前の勤務関係の延長とみることはできないとして、退職手当等としての性質を有する給与に該当すると認定した事例(平成24年5月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分・全部取消し・平成26年12月1日裁決)
- すべての使用人に対して、雇用されている限り毎年誕生月に支給している誕生日祝金について、その支給形態等が、広く一般に社会的な慣習として行われているとは認められないとして所得税法第28条第1項に規定する給与等に当たるとした事例
- 懲戒解雇した従業員に対し地位保全仮処分申請に係る裁判所の決定に基づき支払った金員は給与所得に該当するとした事例
- 外国人出向者の日本における税金を立替払した場合に源泉徴収義務を負うとした事例
- 貸付金に係る利息相当額の経済的利益の供与に基づく源泉所得税の納税告知を取り消した事例
- 請求人が実施した社員旅行は、社会通念上一般的に行われているレクリエーション行事として行われる旅行とは認められないとした事例
- 関係会社の名義による源泉所得税の納付は、請求人による納付としての法的効果を生じないとした事例
- 救急病院等に勤務する医師等に対する宿直料は、本来の職務に従事したことに対する対価であるから、所得税基本通達28−1ただし書は適用できないとした事例
- 外国人芸能タレントの招へい業者へ支払った金員及びその芸能タレントへ支払った、いわゆるドリンク・バックについて源泉徴収を要するとされた事例
- 弁護士である破産管財人に支払われた破産管財人報酬は、所得税法第204条第1項第二号に規定する弁護士の業務に関する報酬に該当し、破産者の源泉徴収義務及び納付義務に関する手続は破産管財人が負うものとした事例
- 海外出向者の帰国後に、当該海外出向者の国外勤務中の給与に係る外国所得税の額を請求人が負担したことについて、居住者に対する経済的利益の供与に当たるとした事例
- 請求人の元理事長らが不正行為により流用等した金員等は、当該元理事長らに対する給与所得又は退職所得として、請求人は源泉徴収義務を負うと認定した事例
- 発行法人がその役員に対して割り当てた新株予約権は、有利な発行価額により新株を取得する権利に該当するとした事例
※最大20件まで表示
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。