請求人が裁判上の和解により取得した職務発明に係る和解金は、譲渡所得ではなく、雑所得に該当するとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2011/09/22 [所得税法][所得の種類][雑所得]《ポイント》 この事例は、職務発明をした従業員等が使用者等に特許を受ける権利等を承継させたときに保障される「相当の対価の支払を受ける権利」(特許法第35条第3項)に基づき、裁判上の和解により支払われた和解金の所得区分につき、請求人が、当該和解金のうち外国特許に係る部分は譲渡所得に該当すると主張したのに対し、特許を受ける権利が通常同一の職務発明から生じるものであることを説示した最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決を参考に、この事例における社内規定の内容から、当該和解金の全部が譲渡所得には当たらない旨判断したものである。
《要旨》 請求人は、国内特許と外国特許とに係る相当の対価の支払を請求する権利は、それぞれ別個の請求権であって、F社から外国特許に係る承継の対価は一切受け取っておらず、F社に対し、在職中の職務発明について特許を受ける権利をF社に承継させたことにつき、特許法第35条《職務発明》第3項の規定に基づき、相当の対価の支払を求めて提起した訴訟において成立した訴訟上の本件和解によって得た本件和解金によって当該外国特許に係る承継の対価を初めて受け取ったのであるから、少なくともその部分に関しては譲渡所得に該当する旨主張する。
しかしながら、我が国又は外国の特許を受ける権利の基となる職務発明は、共通する一つの技術的創作活動の成果であり、当該職務発明については、その基となる雇用関係等も同一であって、これに係る国内外の特許を受ける権利は、社会的事実としては、実質的に1個と評価される同一の職務発明から生じたものということができ、そして、F社の発明考案取扱規定(本件規定)は、F社が日本国及び外国での職務発明に係る特許等を受ける権利等を承継する旨定めており、その趣旨は、国内外の特許を受ける権利の上記のような性格等に鑑み、当該権利の基となる職務発明をした従業者等とF社との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようとしたものであるということができる。このことに加えて、本件規定において、出願数は国内出願の件数により認定し、複数の出願に基づく国内優先権出願及び外国出願は全てこれを一つの出願とみなす旨規定していることを併せ考えると、本件規定が定める出願補償金、登録補償金及び実績報償金は、いずれも、国内における特許を受ける権利と外国における特許を受ける権利のいかんを問わず、本件規定の定める一つの出願に対するものとして規定されているものと解するのが相当である。そうすると、F社から請求人に対して支払われた出願補償金及び登録補償金は、職務発明に係る国外の特許を受ける権利の承継の対価を含むものというべきであるから、本件和解金に係る所得は譲渡所得には当たらない。
《参照条文等》 所得税法第33条、第35条 所得税基本通達23〜35共−1
《参考判決・裁決》 最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決(民集60巻8号2853頁) 東京(知財)高裁平成21年2月26日判決(判時2053号74頁・判タ1315号198頁) 平成21年4月23日裁決(裁決事例集77号72頁) 平成21年10月9日裁決(裁決事例集78号172頁)
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