国税通則法第46条第2項第4号の「事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する事実の有無は、一定期間における損益計算を行うことにより判定することが相当であり、生活費等を控除して利益金額を算定すべきとする請求人の主張は採用できないとした事例
裁決事例(国税不服審判所)
2011/11/15 [国税通則法][納税の猶予と担保]《ポイント》 この事例は、国税通則法第46条第2項第4号の「事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する事実の有無の判定において、納税の猶予は納税者を救済するものであるが、徴収手続における他の納税者との公平の観点から、当該事実の有無は、一定期間における損益計算を行うことによって判定することが相当であり、所得金額が生活費等すら捻出できない利益金額に落ち込んでいる場合には納税の猶予の要件に該当するとの請求人の主張は、法令上の根拠がなく採用できないと判断したものである。
《要旨》 請求人は、請求人の各年分の所得金額及び青色事業専従者給与の金額の合計額から生活費等を差し引いた利益金額がいずれも赤字となるから国税通則法第46条《納税の猶予の要件等》第2項第4号で規定する事実(4号該当事実)がある旨主張するが、請求人の所得金額及び青色事業専従者給与の金額の合計額から生活費等を差し引くという法令上の根拠がなく、独自の見解というべきである。
また、請求人は、昭和51年6月3日付徴徴3−2・徴管2−32「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(猶予取扱要領)は、国税通則法第46条第2項第5号で規定する事実(5号該当(4号類似)事実)の有無を判定する比較期間を「従前に比べ」と定めているから、納税の猶予の始期の前日である調査日前1年間(調査期間)の直前の1年間(基準期間)に限定すべきではなく、平成21年分の売上金額は、平成13年分の売上金額と比べて減少した旨主張する。
しかしながら、猶予取扱要領は、4号該当事実の有無の原則的な判定方法として、調査期間と基準期間の損益を比較して判定する旨定め、例外的に、調査期間以内において、資材の高騰等の損失原因があり、損失原因の発生した日の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額又は損失金額とを比較して判定しても差し支えない旨定め、これを受けて、5号該当(4号類似)事実について、「従前」と比べて判定する旨定めているのであるから、ここでいう「従前」とは、4号該当事実の原則的な判定方法と例外的な判定方法の基礎となる期間を示していると解するのが相当である。そして、4号該当事実に該当する損失とは、単なる利益の減少ではなく、赤字が生じていると認められる場合のことをいい、5号該当(4号類似)事実とは、著しい損失に類似する事実をいうのであるから、5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等とは、著しい損失と同視できるような売上げの減少等をいい、売上げの減少等があれば全てが5号該当(4号類似)事実に当たるということはできない。また、平成21年分の売上金額の減少については、調査期間の売上金額は基準期間の売上金額より減少しているが、その減少の程度が著しいとは言い難い。
《参照条文等》 国税通則法第46条第2項 昭和51年6月3日付徴徴3−2・徴管2−32「納税の猶予等の取扱要領の制定について」
《参考判決・裁決》 名古屋高裁平成23年5月26日判決(裁Web) 平成22年11月18日裁決(裁決事例集No.81)
- 国税不服審判所:公表裁決事例集:公表裁決事例要旨
- 国税通則法第46条第2項第4号の「事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する事実の有無は、一定期間における損益計算を行うことにより判定することが相当であり、生活費等を控除して利益金額を算定すべきとする請求人の主張は採用できないとした事例
関連するカテゴリ
関連する裁決事例(国税通則法>納税の猶予と担保)
- 滞納後に発生した猶予該当事実を、納税の猶予の猶予該当事実に当たるとした事例
- 物上保証人である請求人が担保提供に承諾したことにつき、動機の錯誤により無効である旨の主張を排斥した事例
- 国税通則法第38条第1項各号に掲げる繰上請求事由があるときは、納税の猶予申請に係る国税がその猶予期間内に完納されることが確実であるとか、当該国税の徴収確保の上で全く支障がないなどの特段の事情がない限り、納税の猶予は認められないとした事例
- 増担保の要求処分の是非について、保証人の資力が著しく減少したため、請求人の国税の納付を担保することができないものと認定した事例
- 破産法人がその取締役の滞納国税のために破産宣告前にした納税保証は、適法有効な担保提供手続(保証契約)によるものであり、破産手続の開始によって何らの影響も受けないとした事例
- 延納条件が有利に変更された場合は、変更前になされた保証債務も、主債務と同様の内容をもって存続しているとした事例
- 請求人について、「著しい損失」は認められないものの、売上金額は著しく減少し、赤字の状態に陥っているから、国税通則法第46条第2項第4号に掲げる事実に類する事実があるとした事例
- 国税通則法第46条第2項第4号の「事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する事実の有無は、一定期間における損益計算を行うことにより判定することが相当であり、生活費等を控除して利益金額を算定すべきとする請求人の主張は採用できないとした事例
- 法人成りにより役員報酬を得ることとなった請求人には、国税通則法第46条第2項第4号に規定する事実に類する事実があるとはいえないとした事例
- 請求人について、売上げの減少や経費の増加の程度が著しいとは言い難く、利益については赤字の状態に陥ったとは認められないから、国税通則法第46条第2項第5号に規定する同項第4号に類する事実(事業についての著しい損失に類する事実)があったとは認められないとした事例
- 国税通則法第46条第2項第4号の「その事業につき著しい損失を受けたこと」に類する事実が認められないとした事例
- 原処分庁が納税の猶予の適否の判断に必要な事実確認等を行おうと努めたにもかかわらず、請求人自らが要件が充足されていることを明らかにしていく姿勢がうかがわれなかったのであるから、納税の猶予を受ける権利を侵害した事実はないとした事例
- 納税の猶予不許可処分の取消しを求める利益がないとした事例
- 原処分時において資料の提出がないため納付困難であるか否かの判断ができなかったとしても、審判所の調査によって納付困難な税額が算定され、国税通則法施行令第15条第2項第3号に規定する場合でないことは明らかであるから、納税の猶予申請書の納付計画欄の記載は納税の猶予申請手続の必須条件とはいえないとした事例
- 融通手形の受取人の倒産による手形債務の負担が、請求人に帰責性があるということはできず、不測の事態によって資金繰りが困難になったという点で、売掛金等の回収が不能になった場合と同視できることから、国税通則法第46条第2項第1号に掲げる事実に類する事実に当たるとした事例
- 請求人の意思に反して担保提供がされたとは認められないとした事例
- 担保物処分(国税を担保する抵当権の実行)のための差押処分につき抵当不動産の第三取得者に対して民法第378条[滌除の意義]以下に定める抵当権の実行通知をはじめとする諸手続をとらないことに違法はないとした事例
税法別に税務訴訟事例を調べる
当コンテンツは著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の規定に基づき、国税不服審判所:公表裁決事例要旨と裁判所:行政事件裁判例のデータを利用して作成されています。